不動産は、相続のなかでも大きな割合を占める資産です。
そんな不動産資産の相続で、生きている時からできる相続対策のひとつに「生前贈与」があります。
土地や建物のように限られた利用目的で分割が難しい資産の場合、生前贈与で名義変更することで、所有権を明確にすることができます。
今回は、不動産を生前贈与するメリットや、手続きや進め方、税金についてなど、基本的なポイントをわかりやすくご説明します。
生前贈与とは?
生前贈与とは、文字通り生きている間に、相続財産を配偶者や子供、孫などに対して「贈与」することです。
贈与は、自分の財産を無償で相手方に贈る意思を伝えて、相手が承諾することで成立する契約の一種ですから、不動産の生前贈与は、自分の持っている土地や建物の権利を特定した人に「あなたに譲ります」と伝え、相手が「受け取ります」となった場合に、決められた法的手続きを経て行われるものということになります。
不動産の生前贈与で考えられるメリット
不動産資産の生前贈与を考える理由の多くは、相続対策や所有者の健康上の問題などですが、具体的に考えられるメリットと注意点を見ていきましょう。
1. 自分の決めたタイミングで、希望する相手に、確実に不動産の引き継ぎができる。
2. 贈与者(贈る側)・受贈者(引き継ぐ側)の二者間の取り決めによって、短期間で贈与を終えられる。
3. 相続税を抑えられる可能性がある。
4. 認知症などの対策になる。
1 | 自分の決めたタイミングで、希望する相手に、確実に不動産の引き継ぎができる。
生前贈与の大きなメリットのひとつが、自分の不動産資産を自分が決めたタイミングで、任意の相手に計画的に贈れる点です。
相続でも、遺言などにより相手を指定することはできますが、遺言内容は絶対ではなく、最終的には相続する人の間で話し合って変更されてしまう場合もあります。
2 | 贈与者・受贈者の二者間の取り決めによって、短期間で贈与を終えられる。
とかく残された相続人の間で揉め事になりやすく、土地以外の財産も含めた遺産分割を確定させないと、土地の相続手続き自体が行えないなど、時間もかかります。
生前贈与では、他の手続きとの兼ね合いもないため、基本的には土地などの名義変更と贈与税の納付が済めば完了します。
また、土地や建物の扱いについても、不動産を贈与する人と受け継ぐ人の2者間のみで、きちんとルールを決められるのも、生前贈与の良いところです。
相続の場合、せっかく残したい土地が、相続争いを含めた諸事情により分割されたり、第三者が関与してきたりするケースもあります。
3 | 相続税を抑えられる可能性がある。
将来値上がりしそうな土地や家賃収入がある土地を生前贈与すれば、贈与が節税対策になります。
例えば贈与時点では3,000万円の土地が、20年後(相続するであろう時期)には6,000万円になると予想される場合、相続税の課税対象となる財産が3,000万円増加するので、課税金額が少ないうちに早めに手放すといったケースです。
また、賃貸物件などの家賃収入があるなど収益のある不動産は、物件を早めに引き継いでおくことにより、贈与後の家賃収入は引き継いだ人の財産になるので、結果的に課税対象となる財産額が減ることになります。
ただし、相続時に取得した土地の評価額を最大8割下げられる「小規模宅地等の特例」は、贈与では適用されないため注意が必要です。「被相続人とその家で同居している」「被相続人の事業を引き継ぐ」など特例の要件を満たしているのであれば、相続のほうが税金を抑えられるかもしれません。
贈与と相続のどちらが得かは状況によって異なるため、綿密な税金の計算が必要となるため、税理士など専門家のサポートが必要です。
4 | 認知症の対策になる
不動産の所有者が認知症にかかり、判断能力が低下したり判断能力がないと診断されたりした場合、基本的に不動産の売買や名義変更を、本人が行うことができなくなります。
投資不動産の管理や、相続トラブルを防止するための遺言書の作成などができないだけでなく、介護費用や施設入居費用などを、土地の売却によって捻出することも難しくなってきます。
不動産の所有者が、健康なうちに子供や親族など任意の相手に贈与を行えば、万が一の際も贈与を受けた人がこれを活用して介護することもできます。
このように、認知症対策のひとつとして不動産資産の生前贈与を行うことが、有効だと考えられます。
不動産生前贈与のデメリット
生前贈与にはメリットだけではなく、注意しなければならない点もあります。
贈与税など税金や費用がかかる
不動産を生前贈与すれば、相続税は節税できますが、贈与税や不動産取得税がかかります。
また、登録免許税の税率は、相続時よりも生前贈与時の方が高くなります。
生前贈与が認められないケースがある
生前贈与をした事実が税務署に認められず相続時に困ることもあります。
贈与の事実が税務署に否認されると、実際には既に受贈者に渡った財産が相続税計算上の相続財産として残ってしまい、相続税の課税対象となってしまいます。
申請や手続きが煩雑
生前贈与をする際には、各種書類の作成や申請などの手続きがあります。
自分で行うこともできますが、相続の場合との比較なども含めて、正しく判断して進めるためには、専門家の知識やサポートが必要です。
不動産の生前贈与が向いているケース
生前贈与を選んだ方が良いのは、主に次のようなケースです。
✓ 特定の人に多くの財産を遺したい
✓ 特定の人に早めに財産を渡したい
✓ 贈与者が会社オーナーや事業主である
✓ 贈与予定の不動産が値上がりしそうである
✓ 遺産分割のトラブルが予想される
✓ 所有している不動産が収益不動産である
✓ 贈与者が多額の財産を所有していて年齢が若い
→ 暦年贈与で相続財産を少しでも減らしておことで相続税対策に有効
✓ 贈与の対象になる子供や孫などが多い
→ 暦年贈与は贈与対象者ごとに行えるため相続税対策に有効
※ 暦年贈与は、相続税対策として用いられる方法のひとつで、贈与税の基礎控除枠110万円を有効活用する方法です。
不動産の生前贈与が向かないケース
逆に、生前贈与を選択しない方が良いのは、次のようなケースです。
✓ 不動産を含む相続財産が基礎控除内に収まる
✓ 贈与税の控除制度を利用できないことがわかっている
✓ 子供や孫、配偶者がいない
→ 贈与税の控除や特例をほとんど利用できないため、贈与税が高額になってしまう可能性あり
✓ 贈与者の死期が近い
→ 相続発生から3~7年以内に行われた生前贈与は、相続税の課税対象財産に含まれるため、節税の効果がない
不動産の生前贈与の流れ
生前贈与の大まかな流れは、次の3つのステップになります。
STEP1 不動産の名義変更手続き
まず贈与を行いたい不動産所有者(贈与者)が決める必要があるのが、贈与する財産・引き継ぐ人(受贈者)と贈与を行う目的です。
不動産を引き継ぐ人との間で合意が成立したら、贈与契約書を作成します。
STEP2 贈与契約書の作成
不動産を管轄する法務局に所有権移転登記の登記申請書を提出し、登録免許税を支払います。
贈与者、受贈者それぞれに、定められた添付書類を用意する必要があります。
【贈与者】登記識別情報通知(登記済権利証)/贈与契約書/印鑑証明書/固定資産評価証明書
【受贈者】住民票
※ 手続きを司法書士に依頼する場合は、合わせて委任状が必要です。
STEP3 贈与税の申告・納税
贈与税の申告は、納税者である受贈者が行います。
受贈者自身で税額を計算し、管轄の税務署に申告することになります。
※ 申告期限は贈与を受けた年の翌年の3月15日まで
不動産の生前贈与にかかる主な費用とは
相続で相続が発生するように、生前贈与には次のように、贈与税やその他の費用もかかります。
贈与税
暦年贈与の場合、基礎控除額(110万円)を超えた金額に対して、贈与税がかかります。
贈与の税率は、直系尊属(祖父母や父母など)から贈与された場合の特例税率と、それ以外の一般税率とがありますが、比較すると特例税率の方が低くなっています。
不動産所得税
不動産取得税とは、一般的には土地や家屋を購入する、家屋を建築するなどして不動産を取得した際に、その取得者にかかる税金です。
不動産の取得について、有償・無償の別、登記の有無などの取得原因を問わないため、贈与や等価交換でも課税されます。
ただし、一定の要件を満たす場合には、非課税や軽減制度が適用される可能性があります。
名義変更時の登録免許税
登録免許税は、不動産の所有権が移転したことを証明するための登記手続の際に、国に納める税金のことです。不動産を贈与した場合の税額は「地や建物の評価額(固定資産税評価額)×2%」です。
専門家への依頼費用
不動産の生前贈与を行う場合、名義変更手続きや贈与税申告が必要です。
こういった手続きには専門知識が必要となり、名義変更(不動産の登記手続き)は司法書士、贈与税申告は税理士に依頼するのが一般的です。
ここまで不動産の生前贈与の利点や、注意点、税金に関してお話ししてきました。
土地や建物などの不動産は、取得したら終わるのではなく、その資産を維持管理すること、そして次に誰かに引き継いでもらうことも考えなければなりません。
Marusei Living は、不動産をお待ちのお客さまの悩みやご希望に寄り添って、その都度、最適な運用をご提案いたします。
また、不動産に詳しい税理士や司法書士など、信頼できる専門家と提携しているため、生前贈与や相続についても、お気軽にご相談ください。
まとめ
✓ 生前贈与とは、生前に財産を配偶者や子供、孫などに対して「贈与」することである。
✓ 生前贈与を行うには、自分の財産を無償で相手方に贈る意思を伝えて、相手がそれを承諾する必要がある。
✓ 生前贈与は、受贈者に贈与税などの各種費用が発生するので、注意が必要である。
✓ 不動産の生前贈与は、相続税の節税対策になる場合と、そうでない場合がある。
✓ 不動産の生前贈与では、土地の利用方法のルールなどを決めておくことができる。
✓ 不動産の生前贈与は、認知症対策になる。
✓ 不動産の生前贈与を正しく的確に行うには、専門知識を持った税理士や司法書士への依頼が必要。